忘れて下さい、
      貴女は言う。
忘れないで‥‥
      それは貴女の想う心。

どちらも真実に取れた。
       それが貴女の望み。

朧の月の下。
     憂愁の含む貴女の瞳。

絡めあった指が戸惑う。

貴女が、我、名を呼ぶ声は、
      甘えた鈴の音。
呼ばれることが至福。
      甘美な痺れが身体を走る。

そこまで想い。そこまで苦しめた。

けれど、これが最後。

忘れなければ、
      俺のざわめく神経。
忘れてはいけない、
      それは俺の想う心。

どちらかに嘘を‥‥
      それが俺の望み。

薄紅の花びら舞い落ちる。
      儚さを知った俺の目。

唇の押し当てられた胸が高鳴る。

貴女の名を呼ぶ音は
       空気を含み僅かな声。
呼ぶことが、何とも至福。
       切なさが、身体からあふれ出す。

ここまで想い。ここまで勝手に振る舞った。

けれど、これが最後。

沈めた胸から顔を上げて貴女が言う‥
‥‥ソウ、散ラナイ桜ハナイノデスネ‥‥

抱いた手を離し下げた顔で俺は言う‥
‥‥ウ、季節ハ過ギ逝クモノナノダ‥‥